エッセイ

冨田悠貴乃

「腕の使い方」

ロト先生に師事するようになってから、音色が変わったことを実感しています。

ロト先生とは3年前の夏にニューヨークで開催されたSummit Music Festival で初めてお会いしました。

この3年間でロト先生から教わったことの中でも特に気をつけていることは、腕の自然な重みだけを使って鍵盤を弾くということです。近くの人とお話しする時に必要以上に声を張らないように、鍵盤も押し込みすぎず腕の重みを、手首を利用してそのまま鍵盤に伝えるイメージです。(英語では Natural arm weight = Natural speaking voice とおっしゃっていました)このように弾くことで、シンギングトーンと呼ばれる暖かい響きを作り出すことができるのです。このアドバイスを頂く前は、上手に腕の力を抜くことができませんでした。特に強い音を弾く際腕に力が入り、鋭くかたい音になってしまうことに悩んでいました。肩と腕をリラックスさせる必要があったのですが、どのように自分自身の音に耳を傾ければよいのかが分からなかったのです。しかしこのアドバイスでシンギングトーンを意識するようになってから、フォルテやフォルティッシモを弾くときも、深くて豊かな音が出しやすくなりました。強い音だけではなく、弱い音も芯のある音が出せるようになり、音色の表現の幅もそれまでよりも広がったと感じています。また腕から無駄な力を抜くことで余裕ができ、自分が出している音をよく聴くことができるようになりました。そしてこの経験はソロの時だけではなく伴奏の時にも活かすことができ、ソリストの音と自分の出す音を総合的に捉えることができるようになりました。

音をよく聴くことはとても大切なことですが、難しいことでもあります。しかし、Natural arm weight = Natural speaking voice という言葉ひとつで力の抜き方が明確になり、自然と姿勢も良くなったことで、以前よりも客観的に自分の音が聴こえるようになりました。

ロト先生はこのように「ちょっと意外だけれども効果的な」アドバイスを多く下さります。

これからさらにレッスンを重ね、ロト先生の教えを学んでいきたいと思います。そして自分自身の演奏や、ピアノ指導の際の伝え方にも活かしていきたいです。